『いわき時空散走フェスティバル2025秋』江田・川前ツアー
▶ 江田・川前ツアー『いわき時空散走フェスティバル2025秋』
【日時】2025年10月12日(日)9時30分~13時
【集合・解散】江田駅
【サポーター】井上栞里(いのうえ・しおり)

▶ツアーコース
(スタート)川前駅→ 愛宕神社→ 永山家のしだれ桜→ 遭難碑・六地蔵→ 「木火土金水」の石碑→ 夏井川渓谷錦展望台→ 無量庵→ 篭場の滝→ 背戸峨廊→ 夏井川渓谷キャンプ場→ 江田駅(ゴール)
新マップの江田・川前ツアー!マップでは、江田駅スタート、川前駅ゴールになっているのですが、ずっと上り坂は大変なのでツアーでは逆走するコースにしました。夏井川渓谷沿いを、山々に囲まれながら下っていくのがとても気持ちが良く、最高なツアーになりました!

今回は、時空散走のツアーに初めて参加される方も多く、中通りからいわきにキャンプする予定に合わせて参加してくれたご夫婦や、昔は自転車に乗っていたけどしばらく乗っておらずまた始めたいと思い参加してくれた方、市内外からいわき時空散走を見つけて参加していただけて嬉しい限りです。また、川前地区の地域おこし協力隊の三瓶さんも参加してくれました!
川前駅からスタートし、最初に向かうのは『愛宕神社』です。ここの神社の注目ポイントは、鳥居に書かれた文字。「ブラジル帰郷記念 郡司長治 妻チウ」と刻まれています。明治41年(1908)、日本とブラジル政府間で移住協定が結ばれ、福島県からのブラジル移住者数は日本国内で5番目に多く、いわきからも多くの方が移住しました。郡司長治は、川前出身で昭和4年(1929)にサントス丸でブラジルに渡った方なのです。サンパウロ郊外のリベイラン・クラ―ロを開拓して珈琲、米、綿の農場や牧場経営で成功し、日本人会の会長も務めました。

そんなすごい人が、川前にいたなんて!とビックリでしたが、参加者からは、「よく行く珈琲豆屋さんでブラジル移民の話を聞いたことがある!」との声も。全然関わりのない地域の話が、意外と身近なところに急につながるみたいなことが、時空散走のツアーではよく起こります。だからこそ、どこの地域に参加してもきっと面白いですし、市外、県外からの参加でも楽しめるのだと思います。

次に向かうのは、『永山家のしだれ桜』です。桜の季節には、家前にある立派なしだれ桜が綺麗に咲くそうです。永山家は、楠木正成の配下・和田氏の子孫といわれている地元の名士です。江戸時代、郡山といわきの運搬には、牛や馬を使いました。いわきの塩や海産物を郡山へ運び、帰りは郡山の木材などを積んで戻ってきたそうです。永山家は元禄の頃にそれらの物資を扱う問屋業を始めて財を成したといいます。また、元禄年間には、酒造業を営み、銘酒『永盛』というお酒を造っていたそうです。

地域おこし協力隊の方によると、川前地区には永山さんが多いとのことでした!永山家の立派な門構えにみなさん驚いている様子でした。ここからは、しばらく山道を下っていきます。木々の隙間からの木漏れ日と、夏井川渓谷の岩壁、流れる川の音、鳥の鳴き声、自然の空気に癒されながら、ゆっくりと走っていきます。

下っている途中に道の脇にお地蔵さんがあらわれます。昭和10年(1935)10月27日午後6時頃、豪雨で土砂崩れが発生したところに郡山から平(いわき)行きの列車が衝突し、機関車、客車など4両が脱線し転落しました。12名死亡という大事故となり、慰霊のために『遭難碑と六地蔵』が建立されました。みんなで手を合わせてご挨拶しました。「ずっと気になっていたけど、車だと止まれなかった」という方も何人かいて、「やっとちゃんと手を合わせれた」と話していました。

そしてさらに下っていくと、小さな集落が見えてきました。牛小川踏切を渡って奥に進み、夏井川に注ぐ支流・中川の橋のふもとに、木に囲まれた大きな石があらわれます。高さは約2メートル、中央部横幅は約75センチで、つるっとした楕円形。もうバーバパパにしか見えないので、私たちの中では通称バーバパパ石と呼んでいます(笑)

その石には、「木火土金水」と文字が刻まれており、郷土研究家・吉田隆治氏のブログ『磐城蘭土紀行』では「木火土金水を彫った石碑は、いわき市内ではほかに存在が確認できない。国内では、なんと沖縄市にあるだけ」と記載されています。また、明治の頃に近くに住む「大ばっぱさん」が川に沈んでいる石の夢を見て、それで取り出されたといいます。この石がここにある経緯や歴史、刻まれた文字の意味など謎多き不思議なスポット。でもこのフォルムがだんだん可愛く見えてきますね。

そのすぐ先にあるのが、『夏井川渓谷錦展望台』です。春シーズンは、アカヤシオ(岩ツツジ)、秋シーズンは紅葉が楽しめます。JR磐越東線の車窓からも絶景が眺められ、シーズン時期にはその付近をゆっくり走行してくれます。昭和48年(1973)、夏井川渓谷のアカヤシオを鑑賞した小説家・山岡荘八は「全く飽かさせない景色であり、見事である。山つつじの生命力の根強さ、素ぼくな美しさは、東北人の賛歌でもある」と評しています。ベンチなども置いてあり、景色を眺めながら時間を忘れて過ごせそうなおすすめな場所です。

そして、郷土研究家・吉田隆治さんの別荘『無量庵』にお邪魔させていただきました。この場所は義理の父から受け継いで、30年になるそうです。お庭にござを敷き、各自持参した軽食を食べて昼休憩。珈琲やお茶、梨、お菓子などもご用意していただき、ぽかぽかした太陽の光にあたりながら、吉田さんご夫婦とお話を楽しみました。

隆治さんによると、夏井川渓谷錦展望台は、元々その場所に家を持っていた人が、家を取り壊し、木を伐採し、みんなが景色を見れるようにと展望台にしたそうです。震災前までは、春シーズンになると大渋滞になるほどたくさんの人がアカヤシオを見に訪れていたそうですが、震災後は、原発事故などの影響のせいもあるのか、ぱたりと来なくなってしまったそうです。逆に、知る人ぞ知る絶景スポットになっているので、このレポートを読んだ方はぜひ行ってみてくださいね。

また、赤井サポーターの大森由美子さんも参加してくれたのですが、実は何度も遊びに来ているそうで、ここでバーベキューなどもしていたんだとか。すると、来訪した人が感想を残す『通い帳』が登場し、見返すと大森さんが30年前に書いた感想も残っており、懐かしい思い出話に花を咲かせていました。今回、我々も一言ずつ書かせてもらいました。改めて、小さなことでも記録しておくこと、残しておくことの大切さを実感するのでした。

無量庵が居心地が良くて、動けなくなってしまいそうでしたが、まだツアーの途中ということで、再び自転車に乗って出発します。吉田ご夫妻、素敵な時間をありがとうございました!

次に止まったのは、『籠場の滝』です。「籠場」(かごば)は魚が密集する場(魚場、籠で魚を捕るから籠場ともいう)のことですが、あまりの景観の美しさに磐城平藩主が籠を止めたという伝説があります。
また、ここで紹介したいのが「江田の伴四郎伝説」です。草野一見入道は岩城氏に仕える武士でしたが岩城氏が没落すると、江田に移住し「伴四郎」と名乗り、農業、林業、養蚕、狩猟、街道の通行料などで成功し、いわき随一の大富豪となりました。江戸・吉原遊郭を貸し切って花魁と豪遊したという、とんでもない伝説もありますが、江戸末期には没落し、明治中期には磐越東線の工事で家も取り壊されてしまったようです。

そして驚くのが、参加者の中に、伴四郎の一族とご親戚の方が!その方によると、地元の方からはあまり評判が良くなかったそうで、お金持ちだけどケチだったというような話も聞いたことがあるとのことでした。代々、「伴四郎」と名乗っていたので、どの時代の伴四郎の話か不明ですが、色んな話があって面白かったです。

また、ある時伴四郎が籠場の滝を眺めていたら、大事な脇差(刀)を滝壺に落とし、伴四郎に仕えていた若者が時壺に潜り込むと、なんと水中に御殿があり絶世の美女が機織りをしていました。若者が脇差行方を尋ねると「ここで見聞きしたことを口外しないならお返しします」と言い、若者は約束します。若者が地上に戻ると、一週間の時が過ぎており、屋敷では若者は死んだことになっていました。若者は驚き、屋敷の者から「一体、何をしていたのだ?」と問われ、思わず「滝の中に御殿があり・・・」と答えてしまい、すると若者は吐血して絶命しました。という、伝説も残っているそうです。

次に、『背戸峨廊』へ。ここは、知っている方も多いのではないでしょうか。ツアーでは入口までしか行ってませんが、江田川端を巡りながら四季折々の草花や変化に富んだ滝、大小さまざまな奇岩を楽しむ名勝地です。草野心平は「トッカケの滝」「黄金とろかし」「龍の寝床」などユニークなネーミングを残しています。隆治さんに教えてもらったのですが、『背戸峨廊』と書いて、『せどがろ』と読むそうです!
参加者の中でいわき市内在住の方は、ほとんどの方が行ったことあるとのことでした!令和元年の台風の影響で、現在は登山道入り口からトッカケの滝までは通行可能ですが、その先は入山禁止となっています。

最後に、『夏井川渓谷キャンプ場』へ立ち寄りました。この日は、天候も良く3連休の中日ということもあり、沢山の人がキャンプを楽しんでいました!トイレや炊事場があり、予約不要でなんと無料で利用できるので手軽さで人気です。夏井川が目の前なので、夏場は川遊びもできます。川の方まで降りてみると、静かに川の水がながれていて、とても落ち着く雰囲気でした。

そして帰りは、磐越東線に乗って川前駅まで戻りました!江田駅を利用するのも、磐越東線に乗るのも、ほとんどの方が初めて。みんなでワクワクしながら電車を待ち、乗り込みました。自転車から電車に乗り換えるだけで、スピード感、見えてくる景色、色々と変化があって楽しかったです。1駅でも電車に乗るだけで、小旅行の気分でした。

山道を走るツアーは時空散走では初めてだったので、少し不安もあったのですが、とても充実した本当に良いツアーになりました!!これはきっと春の新緑の季節も気持ちいいだろうなあと。マップの公開もお楽しみに!
文章:井上栞里
写真:鈴木穣蔵